"ナレッジ" is "アセット" 書評vol.2『シュードッグ』

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私にとってビジネスとは金を稼ぐことではない。人体にとっては血液が必要だが、血液を作ることが人間の使命でないのと同じだ。Phil Knight "SHOE DOG"
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昨年NIKEの本拠地、Oregon州に行った際に、ちょうど発売直後で、どこに行っても大量の平積みになっていたのを思い出した。

書籍とは、優れた音楽を聴いた時のような濃密な体験を得られる本、実用的な情報が書いてある本、ただの文字が羅列してある本(ゴミ)の3つに分かれる。

1番目の要素を満たしている本は本当に稀であるが、この本はそのうちの一冊である。

NIKEイノベーション企業である。スポーツシューズはNIKEの登場まで、スポーツの時に履くもので、日常に履くものではなかった。今考えると信じられないが、"日常のライフスタイルにスポーツを取り入れる"ことを社会に浸透させ、新たなマーケットを創出した。これこそがクリステンセンの言う"破壊的イノベーション"である。

 

SHOE DOG(シュードッグ)

SHOE DOG(シュードッグ)

 

 

 

NIKEが国際的なグローバル企業になる前に創業期の葛藤を綴った本であるが、こういった本当に成功した起業家の創業期に必ず共通するのが、"ビジネスが泥臭い"ということである。輸入していた日本企業と折り合いが悪くなる、資金繰りが苦しくなり銀行に見捨てられそうになる、中国に進出する際に党の大物の息子を抱き込んで、中国共産党とのパイプを作る。今だから言えるような、際どいことをこれ以外にかなりやっている。
日本は起業が少ないことを理由にやたらハードルを下げて国もマスコミも起業を煽っているのだが、エクイティファイナンスでリスクをとらずに、国から補助金をもらっているような大方のベンチャーに対して直感的に「こいつらは儲からないだろうな、、、」と根拠なく思っていた。一層、その考えが確信に変わった(無責任だが、もちろんいまだに根拠はない)。この本のターゲットはシリコンバレーや起業に憧れている"意識高い系"が射程圏内だろうが、おそらく彼らは共感できないだろう。

あと特記すべきは、氏が公認会計士であり、ファイナンスに長けていた点、また、銀行の小切手が不渡りになる時に、日商岩井の担当者(日本人)が全額肩代わりする場面に震えた。高度経済成長期の日本の総合商社はカッコよかったんだなと、再認した。